橙色

きのう、NHKの「路」というドラマを見ていたら、えも言われぬ懐かしさが込み上げた。
今朝になって本棚をひっくり返し、原作の文庫本を探し当てた。2015年に初版を購入していた(し、このブログにも当時の記録が残っていた)。
その前年にたまたま台湾に行き、実際に台湾高速鐡道に乗車したこともあって、ページをめくる手が止まらなかったことをよく覚えている。読み終えるのがもったいないと思う本に出会うことはなかなかないが、この本はまさにそうだった。ほんとうにおもしろかった。
10月の台湾は夏のように暑くて、照りつける陽射しがまぶしくて、街角のファミマに入ると八角の匂いがして異国に来たことを思い知らされた。夜市の雑多な雰囲気、台北101からの夜景の美しさ、タピオカミルクティーの甘ったるさ、土産物屋の軒先で惰眠を貪っていた猫、「思い切って行ってみたら?」と背中を押してくれたあのひとのやさしい声。
ドラマを見ながら思い出すすべてのことが懐かしくてたまらなかった。
わたしが福岡にいたころの話だから、もう、5年も6年も前のことだ。

Stay Homeと言われて過ごした連休は、半分ほど実家で過ごし、半分は自宅にいた。
窓をピカピカに磨いて、衣替えをして、最低限の断捨離をして、裁断したままになっていた生地をミシンで仕上げて(テーパードパンツの完成)、祖母から大量に届いた行者にんにくを醤油漬けにして、ときどきお昼寝もして。やろうと思っていたことの8割はできたから上出来。
仕事は相変わらず忙しいし、課長には怒られるし、新人の指導はうまくいかないし、それでもなんとか踏ん張って毎日をやり過ごしている。

世の中も、わたしの身近にも、不条理だと思うことはいろいろあるけど、そう感じているのはたぶんわたしだけじゃないからね。大方のことに満足していても、大なり小なり、不安や悩みを抱えている人もきっといるだろう。ごはんを食べて、お風呂に入って、よく眠ることさえできればだいじょうぶだと思いつつ、思うように気晴らしできず、逃げ場もないようなこの状況を悲観しないわけでもない。
それでも、あしたも、あさっても、命ある限り生きていくことしかできない。だからこそ、なるべく飄々としていたい。余計な感情に左右されたくない。…と、最近はそんなことを考えている。
徒歩で通勤するようになって2kg痩せた。長く伸びた髪を5cm切っただけでずいぶん雰囲気が変わった。マスクばかりで目元と眉以外の化粧を全くしなくなり、会社ですっぴんをさらけ出すことに何のためらいもなくなった。余計なことに気を遣いたくない。ひととしてのやさしさとか思いやりとか、そういう最低限の気遣いだけで十分だと思う。上手に気を抜き、手を抜いて、もうすこし自分をかわいがってあげないと、さすがに自分がかわいそう。

ブラウスの型紙を取ろうかな。それとも久しぶりに勉強でもしようかな。
日曜日の昼下がり、何をして過ごすか悩む時間が一番贅沢な気がして、いつまでもこうしていたいと思わずにはいられない。