虹色

7月18日土曜日、晴天。Mr.Children STADIUM TOUR 『未完』は、ここ福岡でツアー初日を迎えた。すきなひととわたしにとって、約二年ぶりのミスチルのLIVEだった。

4月の『Reflection』のLIVEは彼のファンクラブの力を以てしても当たらなかった。マリンメッセ福岡のキャパシティの小ささをどんなに嘆いてもどうしようもないことだけど、でも、とっても悔しかった。だからこそ、わたしはこの日をとても楽しみにしていた。その反面、この日が永遠に来なければいいとも思っていた。目の前にある何よりもの楽しみが時とともに過ぎ去っていってしまうことが怖かったからだ。
そんな気持ちを振り払うかのように、わたしはひたすらに泣いて笑って歌って叫んで跳ねて跳ねて飛んだ。彼らが奏でるメロディに合わせて両手をめいっぱいに突き上げながら、まさに全身でLIVEを楽しんだ。新しいアルバムの曲はもちろん、懐かしい曲もたくさん歌ってくれたし、大好きなあの曲も聴くことができた。(何度もミスチルのLIVEに行っている彼は「この曲をやるのはめずらしい」と言っていた。)ファンとしての贔屓目もあるかもしれないけれど、今回のセットリストには彼らの本気を見た気がする。

夢のような3時間半はあっという間に過ぎてしまった。LIVEが終わり、観客が一斉に出口を目指し歩き出す。わたしも人混みの中を彼とはぐれないように歩いた。彼のTシャツの裾を少しつまんで、でも、手をつないでみる勇気はなかった。天神へ向かうバスに乗るにも恐ろしいほどの長蛇の列ができていたから、わたしたちは辛抱強く並んだ。
並びながらたくさんの話をした。今日のLIVEのことも、仕事のことも、会社のひとのうわさ話も。「『バケモノの子』を観てきたよ」と話したら、「えっ、観に行っちゃったの?!」と彼に驚かれた。「君が観に行くって言ってたから、前売り券を買っていたんだ」と言われ、今度はわたしが驚いた。それなら「いっしょに観に行こう」って誘ってくれたらよかったのに!なんて過ぎた話だけれど、何の気なしにわたしが話したことを彼がちゃんと覚えていてくれて、わたしはちょっぴりうれしかった。
やっとのことでバスに乗り込み、天神に着いて適当なお店に入った。ふたりで小一時間ほどお酒を飲んだ。疲れもあってほどよく酔っぱらったわたしたちは、23時半ごろ店を出た。「明日は朝から飛行機に乗って埼玉へ帰らなくちゃいけないんだ」と言う彼に、わたしは「気をつけて行ってきてね」と笑顔で手を振った。「ちゃんと帰れる?」と彼が聞くから、「適当に帰るから大丈夫」と答えた。青信号はすでに点滅していた。彼は振り向くことなく小走りで横断歩道を渡っていった。信号が赤に変わったことを見届けて、夜の街に消えた彼の背中を想いながら、わたしは踵を返してバス停へと向かった。

約二年前のミスチルのLIVEのことを、わたしは明確にはここに書いていなかったようだ。すきなひとと、すきなひとのすきなひとと、会社の後輩と、わたし。4人で仙台公演へ遠征したあの日のこと。「せっかく仙台まで来たんだから被災地を見て回ろう」と言って女川や石巻を訪れたこと。それが、この記事。


ここに出てくる「会社の先輩」というのが、紛れもなく彼のことで、このころはまさか彼のことをすきになるなんて思いもしなかった。
思い返せば、彼と仲良くなったそもそものきっかけはミスチルのLIVEだった。ほとんど顔も合わせたことがない会社の先輩だった彼、仕事上の電話での印象は「怖いひと」だったはずなのに、それが今ではこんなにすきなの。不思議。
ただ単調に生きてるだけのわたしの人生。敷かれたレールの上を進み、安定した会社に入って、これまでも、これからも、きっとわたしはできる限り平坦な道を選んで歩いていく。そんな道の上にも大小様々な石ころがいくつも転がっていて、踏みつけたり、躓いたりすることもあるだろう。もちろん、そのすべてを拾い上げることはしないけれど、ひときわ目立っていたから…とかそんな理由でたまたま拾ってみたのが“彼をすきになる”宝石の原石だった。磨いてしまったら最後、それがあまりにもきれいで、美しくて、きらきらしていて…きっと、たぶんね、だから今もこうしてこの手に強く強く握り締めているんだと思う。手離せないんだと思う。

25日はふたりで柳川に行く約束をした。「行きたいところは早めに行っておかないと、全部行ききれないからね」と笑う彼。一年越しの約束を忘れずにいてくれてありがとう。わたしは今、とても穏やかな気持ちでまっすぐに彼を想えるしあわせを噛み締めている。