紅梅色

例年より早い春の訪れに、わたしは少し戸惑っている。

札幌への転勤は夢に散った。
今の会社にいる限り、わたしが札幌に異動することは100%ないこともわかった。

内示前だというのに、課長は言葉を選びながらすべてを打ち明けてくれて、「方々手を尽くしたのだけど、力及ばず申し訳ない」と頭を下げた。なんでもないふりして結構ショックを受けていたことは、ここだけの秘密。だって、根拠もないのに札幌に行けるような気がしてたから。そのつもりでいろいろなことを覚悟してたから。

その日、勢いで地方への転職に強そうな転職エージェンシーに登録し、面談のアポを入れた。道内の企業が集まる会社説明会の日程もチェックして、さっそく手帳に予定を書き込んだ。
でも、自分の仕事、働く場所、生き方、人生、そんなことについていろいろと逡巡しているうちに、「別に今の会社を辞めたいわけではないんだよなぁ」という正直な気持ちが浮き彫りになった。何かを得るためには何かを捨てる必要があるかもしれないけど、わたしはそんなに潔く今の勤務先を切り捨てられないと思った。それだって間違いなくわたしの本心で、だからこそ迷いが生じる。いずれ迫られるであろう自分自身の選択を後悔しないためにも、わたしはその気持ちを否定することはできないのだ。

異動を控えた年度末らしく、やりたいこと、やるべきことが多すぎて正直オーバーワーク気味。それでも、最後まできちんと仕事を納めてから次の部署に異動したい。
そんな仕事の息抜きが資格試験の勉強という、わたしにしてはめずらしい状況に陥っている。21時くらいまで残業して帰ってきても、ごはんを食べ、お風呂に入って、30分は机に向かう。秋の試験まで飽きず、諦めず、気を抜かず、「やり切った」と思える自分がそこにいてくれたらいい。

そういう日々の積み重ねも悪くないな、と、春の入口でふと思う。
まずは3月早々に始まる出張地獄に耐えなければ…(主に体力的に。今月はインフルエンザと見紛うほどのひどい風邪をひいて散々な目に遭ったのだった。)