monochrome

f:id:irodori-no-sekai:20170219224531j:plain

傾いた電柱。
葉擦れの音。
えぐられた山肌。
鳥のさえずり。
田畑の痕跡。
ひしゃげたガードレール。
がれきの山。
風のうねり。
壊れたブロック塀。
積み上がった汚染土。
3人分の足音。
バリケードの連なり。

それだけだった。それ以外、なにもなかった。

ひとの気配がまるでない、街の異様な静けさに思わず息を呑んだ。6年前のあの日から、この場所だけは時が止まったままに見えた。ここで暮らし、ここで生きていたひとたちを想うと、震災が奪ったものの大きさをあらためて思い知らされた。
言葉が、出なかった。

小鳥たちは自由に空を飛んで、帰還困難区域との境を行ったり来たりしていた。小鳥たちにとってはバリケードなど何の意味もない。自らが多くの放射線を浴びていることすら気づかない。そのさえずりはまるで鈴の音のように、美しく響いていた。

「厳しい場所に行くからね」と先輩に言われた。いわきでの取材が終わったあとの行程だから無理しなくていい、とも言われたけど、わたしには断る理由なんて見つからない。福島の今を、この目できちんと見ておきたい。そう思った。
浪江、双葉、大熊、富岡。原発事故以来、テレビでよく見聞きする街。高速道路で、県道で、国道で、街の至るところで、電光掲示板が線量を示していた。その値が低いのか高いのか、横浜と比べてどうなのか、正直よくわからなかったけど、やはり地点によって結構バラつきがあるらしかった。
あの日、あの地震が起こるまで、多くのひとがそこで生活を営んでいた。翌日には避難指示が出て、まさに着の身着のまま逃げ出したひとも多かっただろう。ひとがいなくなった建物は激しく傷み、植栽が伸び放題に伸びた家も、枯れた蔦が絡まった商店も、自動ドアが半開きになったコンビニも、地震で半壊したままの家も、たぶん、すべてがあの日のままそこにあった。

なにもない、なにも聞こえない、荒れ果てた地面に足をつけて空を仰いだ。澄んだスカイブルーにすーっと飛行機雲が流れていくのが見えた。遠くには海が凪いでいる。
そうだ、その先に、福島第一原子力発電所があるはずだ。

わたしは、今日見聞きしたことを、感じたことを、思ったことを、この先一生忘れないだろうと思った。