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「そういえば、年はおいくつなんですか?」
「45だよ」
あぁ、あのひとと同じだ。

「LINE交換しよう」
「僕とデートしよう」
あぁ、あのひとと同い年なのに言うことは真逆なのね。

久しぶりにすきなひとのことを思い出したんだけど、今日は違うひとの話。

この45歳、おんなのこがとにかくだいすきで、「ふられた」という話を聞いたのも二度や三度じゃ済まないくらいにいろんな子と遊んでいるようだ。「かわいいね」「僕の彼女になってよ」と会うたびに言われるから、「誰にでもそういうこと言ってそう」とはぐらかして笑うのはお決まりのパターン。そんな言葉でほいほいとついていくほど、わたしだってばかじゃない。
遊び人だしお酒も飲むしタバコも吸うけど、たぶんこのひとモテるだろうな…って、おんなのこだったら誰でも思うんじゃないかなと思わせるようなひと。どんなに遊んでいても、おとこのひとらしいやさしさってとても魅力的。だから、遊ぶおんなのこには困らないんだろうね。

先日、お酒の席でいっしょに飲む機会があった。忘年会ということもあり、みんな無礼講で大いに酔っぱらっていた。わたしだけ自宅が遠く、みんなよりも終電が早いから先に帰ることにした。
「駅までひとりで行ける?」と聞かれ、「よくわからない」と答えたら、「送っていくよ」と席を立ってくれてふたりでお店を出た。思いのほか駅はすぐ近くにあった。「こんなに近いならひとりで帰れたのに、ごめんなさい」と謝ると、「もうちょっといっしょにいたかったから」と言われた。本心なのか冗談なのか、このひとはまたおかしなことを言ってる。そう思った。
駅前の信号を渡りながら、「2秒だけ」と手をつながれた。無下に振り払うこともできずにそのまま改札の前まで送ってもらった。「2秒なんてとっくに過ぎてる」とやさしく離した手をもう一度つなごうとするのを、わたしは見逃さなかった。「こんなこと久しくしてない」ってとなりでつぶやくから、「うそでしょ?」って、思うだけで口には出さなかったけど。それでも、久しぶりに触れたおとこのひとの手は大きくて温かくて、不覚にもどきっとしてしまったことはここだけのひみつ。
わたしのこと、ほんきですきだとかそういうのじゃないってわかってるから、わたしも深入りはしない。もうあんな思いをするのはしばらくゴメンだ。

とはいえ、おんなのこに手慣れたひとがこんなふうに近づいてくることって今まで皆無だったから、いったい自分の身に何が起きているのかよくわからないまま。「誰にでもこういうことしてるんでしょ?」って、思い切って聞いてみたらよかったかな。それじゃあまりにも可愛げがなさすぎるかな。
こういうことがあると、次に仕事で会うのがとても気まずい。“酔っぱらってたから何も覚えていない”ふりをして、なんとかやり過ごしたい。

それにしても45歳って。もうすこし年の近いひととのご縁はないものかしら…なんて、45歳をだいすきだったわたしが言うのも変な話か。すきなひとは元気で暮らしているかな。たくさん話したいことがあるんだけれど、わざわざ連絡するほどでもないよね…と思いながら今日に至る。
同じ空の下、元気に暮らしていてくれたらそれだけでいいよ。会いたい気持ちは胸にしまって、今はただ、それだけを願ってる。