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ゴールデンウィークはカレンダーどおり。先週のうちに終わらなかった仕事は、家に持ち帰ってこの3連休で仕上げた。忙しい、忙しい。でも、「忙しい」と騒ぎながら慌てふためいているほうが、余計なことを考えずに済むからいい。

仕事で昔の社内報を見た。21年前の4月号、新入社員の彼の顔写真が載っているのを見つけた。今より顔がふっくらしていて、なんだかあどけない表情で。「21年前のあなたを見たよ」と言えば、彼は顔を真っ赤にして騒ぐだろうということくらい安易に想像がつく。今じゃそんなやりとりさえ懐かしい。
すきなひとと見たあの海によく似ていた。すきなひとと乗れなかった観覧車は今日もゆっくり回り続ける。すきなひとと行きたかったあの場所にはもう行けないかもしれないな。思い出すのは彼のやさしい顔ばかりで、笑うと目尻に皺が寄るのがとてもすきだった。「もう終わったこと」と蹴りをつけた気持ちに嘘偽りはないけれど、やっぱり、まだどこかで彼のことを引きずってるわたしがいる。横浜に来て3週間、今日の今日までそんなふうに考える余裕さえなかったことに気がついた。久しぶりに、ほんとうに久しぶりに涙がこぼれた。散らかったテーブルの上に小さな水たまりがいくつもできた。

すきなひとはこのゴールデンウィークを10連休にして埼玉に帰ってきている。羽田へ着陸態勢を取った機上からみなとみらいを眺めても、わたしのことはきっと少しも思い出さなかったはず。「あのときは突然だったからお礼も言えずにごめん」と手紙に書いてあったけど、ゴミ袋へのお礼か、贈り物へのお礼か、はたまた、震えながら伝えた気持ちに対するお礼なのか、彼はそのすべてを明らかにしなかった。
ずるいひとだと思った。
でも、とてもやさしいひとだと思った。