biscuit

ゴールデンウィークは何するんですか?」「飲み会が続いたり、舞台を観に行ったりするよ」「誰と舞台を観に行くの?」「昔からの知り合い」「へぇ、“子猫ちゃん”といっしょに行くのね」「“子猫ちゃん”なんて知らないけど、いっしょに行くのは女性だよ」
昨夜の飲み会ですきなひととそんな話になって、わたしは傷をえぐられるような思いがした。わたしが彼のことを好きだと唯一知っている会社の同期も含めた3人での飲み会、「いっしょに行くのが本当に彼女だったら、あのひとの性格からして相手が女性だなんて明らかにしないと思うよ」と同期はあとからフォローしてくれたけど、わたしにとってはそんなこと大した問題ではない。ゴールデンウィークなんか来なければいいと思った。彼は埼玉に帰って、わたしの知らないところでわたしの知らない誰かにとってのやさしいひとでい続ける。それがとても嫌だと思うのは、わたしのこころが狭いからなのだろうか。
aikoの『二人の形』という歌から歌詞を借りれば、

あなたにはあたししかいないなんて
そんな事到底言えないけど
いまのあたしにはあなたしかいらない

のである。すきなひとにそういう女性がいたって、もしかしたら本当に“子猫ちゃん”がいたって、それについてはわたしがとやかく口出しできることではない。寝ても覚めても心のどこかがもやもやしていた今日という一日を、せっかくの祝日だというのにわたしは完全に持て余していた。久しぶりに泣きたいなぁ、と思った。

飲み会が終わって、同期はひとり自転車で帰っていった。彼とわたしは天神駅を目指して歩いた。「バス停まで行ける?大丈夫?」と言う彼に精一杯の笑顔で大丈夫だと答えた。手を振って、彼に背を向けて歩き始めた。こんなにもつらいならいっそのこと振り返って追いかけて呼び止めて彼に「すきだ」と伝えてしまおうかと、一瞬、ほんの一瞬、考えて立ち止まったけどやめた。バス停をいくつか通り過ぎながらとぼとぼ歩いて、少し酔いが醒めたころ、観念してバスに乗り込んだ。
「余計なお世話かもしれないけど、あのひと、きっと君の気持ちに気づいているよ」と同期に言われた。彼は他人をよく見ている。それがずばり当たっていることも多い。だから、そういう彼が言うならきっとそうなんだろうと思う。
もしほんとうにそうだとしたら、すきなひとはわたしの気持ちに気づいていながら何のアクションも起こさないし、ましてやわたしをすきでいてくれているという様子も皆無だ。「気持ちを伝えてみたら?」と言われたところで、ふられて気まずくなるのが目に見えている。今はまだ、そんな勇気ない。

風邪をひいた。喉が痛いし咳も止まらなくて苦しい。彼に会いたい。そんなどうしようもない気持ちを押し殺すように、わたしは泣きながら眠った。目が覚めたらちょうど夕飯の時間で、残り物のカレーを温めなおして食べた。今日はキッチンに立つ元気も気力もなかった。