baby blue

この週末、福岡でミスチルのライブが行われている。これまで何度も抽選のチャンスがあり、すきなひともわたしもそのたびに申し込んでいたけれど、結果は惨敗。そのため、わたしたちは“当日抽選枠”というラストチャンスに一縷の望みを賭けていた。その結果が金曜日の夜に発表された。
届いていたのは予想どおり『落選』の報せ。報告するまでもないと思いながらも、念のため「ミスチルのライブの抽選はやっぱりだめでした」と彼に連絡した。「僕もだめでした」という彼からの返事に気づいたのは翌朝のこと。ミスチルのライブ、とてもとても行きたかったけど、こればかりはしょうがないと笑うしかなかった。

「せっかく予定を空けていたのに暇になっちゃった」―この言葉の裏にあるわたしの想いを、彼が気づいてくれたらいいな、と思ったけど、気づいてくれないだろうな、とも思った。彼のことを試したかったわけじゃない。ただ、わたしには勇気がなかった。それだけだ。そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、彼は「まぁ、致し方ないよね」とだけ返事をくれた。至極真っ当な大人の返事だった。
「会いたい」と、彼に直接的に言わなくてよかった。わたしの気持ちに嘘はないけど、彼もせっかくの休日、福岡で過ごすたびにわたしに会う義理もないだろうから。彼も、わたしも、それぞれに思い思いの週末を過ごせたらいいと思った。LINEは既読のしるしをつけたまま、わたしから返事をすることをやめた。

お昼ごはんを食べてから、軽く化粧を済ませお財布と携帯だけ持って出かけた。バスの車窓からいつも見かける小さな本屋さんを覗いてみようと考えたのだ。
雨が降り出しそうだったから、自転車をやめてバスに乗り込んだ。何の気なしに携帯を眺めていると、彼から再びLINEが届いた。「暇だったら夕飯でも行かないか?」というお誘いだった。うれしいというより、ちょっとびっくりした。彼がこんなふうにわたしを誘ってくれること、今まであんまりなかったな、と思った。凪いでいた心がさわさわと揺らぎはじめて、少しのあいだ、返事に困ってしまった。

彼も天神で買い物をしていると言っていた。逸る気持ちを抑えながら、わたしはゆっくりと本屋さんを楽しんだ。福岡にいるうちに行っておきたい旅行先に関する本を何冊か買い込んで、歩いて天神へと向かった。
彼はわたしがいる場所まで迎えに来てくれた。淡いみずいろのギンガムチェックのシャツがとてもよく似合っていて、どんよりとした曇り空、小雨がぱらつく街角で、彼のもとだけ抜けるような青い空が広がっているようだった。早く会いたくて小走りで駆け寄った。わたしを見つけた彼はすぐにいつもの笑顔を見せてくれた。笑うと目尻に皺が寄るの、彼は「もう歳だから」と嫌がるけれど、わたしはとてもすきだと思う。
適当に入った居酒屋さんだったけど、おいしいお酒とおいしい料理に舌鼓。話題に事欠かないわたしたちは、結局昨夜も遅くまでいっしょに過ごした。お店を出て、彼はわたしをバス停まで送ってくれた。時刻表を見て、すぐにバスが来るであろうことを確認してから、彼はひらひらと手を振って地下鉄の駅へ歩いていった。彼のうしろ姿を見送ったあとに残る甘くほろ苦い感情は、いつまでも消えることはなかった。

4月、福岡に来て二度目の春を迎えました。