seagreen

雲ひとつない青空に恵まれた土曜日は絶好の散歩日和で、わたしはすきなひとといっしょに「門司港レトロ」へ出かけた。天神からバスに揺られること2時間、日帰り旅行にはちょうどいい距離だ。門司港名物の焼きカレーを食べるために1時間も並んだり、関門海峡を眺めながら海沿いを歩いたり、和布刈神社でおみくじをひいてみたり。穏やかな海風は肌に心地よく、懐かしい潮の匂いを連れてきた。エメラルドグリーンの水面はきらきらと眩しいほどに揺れて光る。彼とふたりで肩を並べて歩くのは久しぶりのような気がしたけれど、話は尽きず、とても楽しい一日だった。

「すき」と伝えようと思った。でも、言えなかった。
チャンスは何度だってあったのに、わたしはやっぱり怖かった。

天神まで戻ったわたしたちは夕飯を食べた。おいしいパスタだった。すっかり話し込んでしまって、気づけば時計は23時を回っていた。新天町の入口、いつもの場所に自転車を置いているわたしに、彼は「駐輪場まで送っていこうか」と言ってくれた。今いる場所から駐輪場まではすこし距離があるから断ろうかと思ったけれど、「じゃあ、送ってください」と甘えてみたらちょっと嫌がられた。その反応を見て少なからずショックを受けたわたしが「すこし歩くから、やっぱりひとりで帰る」と言うと、彼は「何かと物騒な世の中だから送っていきますよ」となんでもない様子で歩き始めた。なんだかんだと言うけれど、彼はちゃんとやさしいひと。
夜になってシャッター通りと化した新天町は静かだった。昼間とは違い、人気もまばらで薄暗い商店街。でも、彼がとなりにいてくれたから心強かった。駐輪場に着いて、彼とさよならをした。笑顔で手を振る彼の姿がとても愛しくて、苦しくて、切なかった。

和布刈神社でひいたおみくじ、運勢は「吉」だったけど、“恋愛”のところには『今の人が最上 迷うな』と書いてあって、背中を押された気がした。