薄墨色

松谷みよ子さんが亡くなったというニュースは、わたしにとって大きなショックだった。『いないいないばあ』は小さいころ母親に毎晩読み聞かせてもらっていたし、『モモちゃんとアカネちゃん』シリーズはわりと大きくなるまでよく読んでいた。『龍の子太郎』のお芝居を、小学6年生のときの学芸会で発表したのもいい思い出だ。(当時のわたしは今では考えられないほど目立ちたがりで、主人公のヒロイン役に立候補し、オーディションの結果見事選ばれたのだった。)

わたしが「目下」という言葉の存在とその意味、そして使い方を知ったのは、この『モモちゃんとアカネちゃん』シリーズがきっかけだった。たしか、物語の小題に『もっかけんかちゅう』というのがあって、幼いわたしはこの“もっか”という言葉が理解できなくてもどかしかった。物語を読んでいくうちに、どうやら“ただ今”とか“現在”のような意味だということは推測できたけど、それで本当に合っているのか、正しい意味はなんだろうか、漢字ではどのように書くのだろうかと、頭の中を“もっか”という言葉がぐるぐると行ったり来たりしていた。
当時はインターネットなんかないし、「ググる」なんて言葉ももちろんなかった。だけど、なんとか調べて意味がわかって、すごくすっきりしたことだけは今でもよく覚えている。“もっか”という言葉を聞くと必ずそのときのことを思い出す。本を読むということはひとつひとつ知識をつけてゆくことだ、と、信じて疑わない今のわたしの原点だ。

松谷みよ子さん。わたしにとって、本を読むことの大切さと、それ以上に、楽しさ、おもしろさを教えてくれたひとだった。ご冥福をお祈りします。