chocolate brown

バレンタインデーを一週間後に控えた今日、福岡三越の地下2階はものすごいひとで溢れかえっていた。福岡市の人口は男性よりも女性の割合が多いと聞くけど、今日は福岡市内のすべての女性が三越や大丸や岩田屋に集まっているんじゃないかと思うほどだった。
人の波をかきわけて進む。ピエール・マルコリーニゴディバ、ドゥバイヨル、ジャン=ポール・エヴァン、はたまたロイズ、六花亭ゴンチャロフモロゾフなどなど、国内外様々なブランドのチョコレートが有名も無名も一堂に会している光景は、まるで宝石が陳列しているように華やかで、きらきらしていて、甘やかでとても美しい。
わたしが大好きなデメルのチョコレートは相変わらずかわいらしくておいしそうだった。九州への転勤が決まったとき、当時の上司が「異動の希望を叶えてやれなくて申し訳なかった」とデメルのチョコレートをサプライズでプレゼントしてくれたけど、もちろん上司はわたしがデメルのチョコレートを好きとは知らないので、上司のその選択は単なる偶然(にしては大正解!)だった…という思い出のチョコレートでもある。

とりあえず、会社のひとにはMary'sの『Chocolasika』というチョコレートを選んだ。小箱のデザインがものすごく好きで、ひと目見て「これにしよう!」と決め、10箱を大人買い。これは、同じチームのひとと、九州にいる会社の同期と、14日に会う予定の会社の先輩に渡す分。昨年は両親にも5000円分くらいのチョコレートを買ってクール便で配送してもらったけど、今年はあまりの混雑で早々に諦めた。父には九州の地酒を、母にはビール券を買って送ろうと思う。

 『Chocolasika』の10箱では、あげたいひとの人数に対してひとりぶん足りない。
要するに、すきなひとには、何を、どのくらい、どうやって、渡せばいいのかと未だに頭を抱えている…ということ。

とりあえず、明日はお菓子を作ろうと思って、福岡三越の『Chocolasika』の代わりに100円SHOPでカップケーキの紙型を買った。カップケーキを選んだ理由は、わたしが好きだから、という単純な理由。でも、「Only you」の気持ちを込めて、すきなひとにはおいしいおいしいカップケーキを渡したいと思った。
おいしくできたら、彼にだけ渡す。“どうやって”はこれから決める。おいしくできなかったら、『Chocolasika』をもう一回買いに行くかもしれないし、買いに行かないかもしれないし、『Chocolasika』とは違うチョコレートを買うかもしれないし、もう一回、カップケーキじゃないお菓子を作ろうと材料をそろえるかもしれない。

その先のことは想像もできないけれど、どんなかたちであれ、とにかく彼がしあわせでいてくれたらそれでいいと思う。「君とは年の差がありすぎる」とか「社内恋愛は絶対にしない」とか、彼から何度も聞かされてきたんだもの。叶わない恋、届かない気持ち、悲しくなるのはわたしだけでいいじゃないか。

そうやって、自分で言い聞かせるの。
いつまでも、自分を慰められるのは自分しかいないの。
平気なわけない。そんなに簡単に諦められるような恋じゃない。

彼と観に行ったサーカスは、明日幕を下ろす。そのうちあの赤い大きなテントはきれいに閉じられて、枠組みも撤収されて、街の中に現れるだだっ広い空き地は束の間の役目を終えてしまうのだ。大きな分譲マンションだったか、公的機関の移転先だったか、いよいよ本格的な建設工事が始まるらしい。
一年経って、見慣れた街並みはめまぐるしく変わってゆく。だけど、彼といっしょにいた日々のこと、わたしはいつまでも忘れたくない。忘れられない。悲しくても、傷ついても、どんなに涙がこぼれたって、ちゃんと覚えてたい。

カップケーキ、おいしく焼けたらいいんだけどな。