Orange

引き続いて仕事の話だけれど、わたしは入社して初めての配属先に丸2年お世話になって、でも、言っちゃ悪いがそのとき携わっていた仕事はとても苦手な部類に入るものだった。
いわゆる“B to C”の仕事。お客様には電話でよく叱られたし理不尽なクレームも数え切れないほど受けた。よくわからないままに怒鳴りつけられたりもした。他人に怒られることなんてそれまでほとんど経験がなかったわたしは、お客様にけちょんけちょんにけなされるたびにトイレにこもってめそめそ泣いた。お客様に電話をかけるのも大嫌いだった。そういう嫌いな仕事はできるだけ避けて通り、でも、それがなんとなくでも通用していたのだから、入社数年のくせして我ながら大したものだと感心する。(もとい、呆れ果てると言ったほうが正しいだろう。)
23歳、あの頃のわたしはまだまだカワイイ甘ちゃんだった。

その後の2年間は総務で人事や厚生を担当していた。この仕事は素直に楽しいと思えた。わたしは、自ら現場に出て泥臭い仕事をするよりも、裏方として、縁の下の力持ち的な存在として、会社のひとたちのために働くことのほうがずっと自分に向いていると思った。
25歳、すこしだけ社会の仕組みがわかって調子に乗り始めたころ。

そして九州への転勤。勤務場所こそ違えど、入社して初めて携わったあの大嫌いな仕事とまったく同じことを任されている今。苦手な電話応対にはちょっとやそっとのことでは動じなくなったものの、やっぱりお客様対応は好きではないと思う。そもそも、「お客様は神様だ」とお客様自身が思っていることに腹が立って仕方がないのだ。(そういう横柄な客には「その言葉、本来の意味を履き違えていますよ」と教えてやりたくなる。)
27歳、会社の都合で振り回されるのはもうまっぴら!と上司や先輩に楯突くほどには図々しく成長してしまった。

人事異動の希望を聞かれたとき、わたしは「異動したい」とはっきり言った。「君の気持ちはよくわかるし、僕もその方がいいと思ってる」と上司は言ってくれた。どうやらその可能性が高くなった今、大嫌いな仕事から離れることをうれしいと思うよりも、今のチームを離れることのほうが寂しいと思う気持ちのほうがずっとずっと大きい。ひとの気持ちというのは一年でこんなにも変わるものかと、自分でも驚いてしまうほど。
そんなことを思いながらふと空を見上げたら、満月になりそこねたような月が橙色に夜空を彩っていた。なりそこねた…というのはちょっと違うかな。満月を経て、これから少しずつ身を削りゆく月。おぼろげで、はかなくて、たよりない月。とても美しかった。