topaz

透きとおったみずいろの空を仰ぎながら、痛いほどの陽射しを浴びて大きく息を吸い込んだ。甘ったるい金木犀の香りが街をやわらかな秋色に染める。鮮やかなグリーンから黄金色へと少しずつ色を変える銀杏並木は、今日も空に向かってまっすぐに伸びていた。
福岡の街は、迷うことなく、季節をまたひとつ先へ進めようとしている。

どこにいても、何をしていても、わたしはすきなひとのことばかり考えていた。彼に「会いたい」というよりは、「どうすれば諦められるか」とか「どうすれば離れられるか」とか、そういう類のこと。
少し冷たい夜風を切るようにして自転車に乗る。平坦な道だから力は要らない。わたしの身体はペダルを踏むごとにするすると自宅へ運ばれてゆく。「会いたい」と思わないのはあえてそう思わないようにしているからで、ほんとうはいつだって「会いたい」と、心の奥の深いところで数え切れないほど何度も願ってる。すきですきでたまらなくて、会いたくて、でも言えなくて、「叶わない恋ならば」と自ら断ち切ろうとする想いは日に日に増してゆくばかり。
曲がり角のお店からいい匂いがした。あたたかい電球の明かりがぽっと灯る。「帰り道においしそうなおでん屋さんがあるから、寒くなったらいっしょに行こう」と、いつだったか彼に話したことのある小さなこのお店は今日も満席のようだった。
前に進みたい。進めない。自転車の車輪はからからと無機質な音を立てて回っている。気づけば自然と涙がこぼれて、わたしは泣きながら帰った。秋はひとを弱くする、そういう季節だと思う。

るろうに剣心』をいっしょに観に行こう、と彼に言われていた。「いつ観に行きますか?」と聞かれていたメールの返事を(仕事が忙しすぎて)すっぽかしていたけど、結局、来週の土曜日に観に行くことになった。
あぁ、これでまた、わたしは今まで以上に彼をすきだと思うのだろう。わたしのささやかな抵抗は、こうしていつも意味を失くしてしまうんだ。