青藍

6000発の花火が福岡の夜を彩った日。わたしはすきなひとのとなりで夜空を見上げながら、ときどきあの子のことを思い出していた。
揺れる気持ちに答えを出そう、出さなくちゃ、と思うけど、「いますぐに」だなんて土台無理な話で、そもそも出した答えに○や×をつけられるようなことではないのだから、…なんて、自分への言い訳ばかりが上手になる。

花火会場へ向かう途中、突然大粒の雨が降ってきた。通り雨のようだった。彼は大きな傘をわたしにも差しかけてくれて、ふたりで相合傘をした。ほどなくして雨は止み、屋台で焼きそばを買って、怪しい雲行きにどきどきしながら花火の打ち上げを待った。
きらきらとはなやかに、でもはかなげに、打ち上がった花火は夜空に散った。迫力ある音はからだを芯から震わせて、闇に広がる大輪の華は文句なしにきれいだった。
湿った夜風がここちよく袖をすり抜けて夏を運ぶ。火照ったからだの理由は夏の暑さのせいか、それともとなりに彼がいたからか。「あの子はどこでこの花火の音を耳にしているだろう」ということが一瞬頭を過ぎった。そんなことを考えながらわたしは、なんだか彼のとなりで“悪いこと”をしているような気持ちになった。

最近、すきなひとがあの子の名前をよく口にする。「無愛想だけどいい子だ」とか「仕事もできるし出世するよ」とか、やたらとあの子を褒めてはわたしに「恋人候補にしたら?」と勧めてくる。YesもNoも言えないわたしをからかうようにして彼は笑う。わたしはなんだか泣きそうになる。

土曜日の朝、宿舎の階段でばったりあの子と鉢合わせした。こんな時間なら誰に会うこともないと高を括っていたからすっかり油断した。「おはよう」も「いってらっしゃい」も何も言えず、ふたりで「びっくりした」と顔を見合わせながらすれ違った。
ちゃんとメイクして外に出ればよかった、とか、部屋着のままで外に出るんじゃなかった、とか、きっとあの子はそこまでわたしを見ていないのに後悔した。休日にあの子に会うのはこれで3度目の偶然。

すきなひとと映画を観に行った話は、また今度にしようと思う。