garnet

すきなひととお昼ごはんを食べに行って、他愛ない話をしながら笑う時間が好きだ。すきなひとといっしょにいるわたしは、他の誰といっしょにいるときよりいちばんわたしらしくいられる。ありのままのわたしを受け入れてくれるひとだから、わたしは彼をすきになったのだと思う。

映画を観に行く日を決めた。週末、土曜日の夕方に約束をした。
ついでに「金曜日に大濠公園で花火大会があるの」と話を持ちかけた。「観に行くの?」と聞かれたから、「あなたが行くならいっしょに行く」と言うと、「じゃあ行ってみようか」ということになって、仕事帰りにふたりで花火を見に行くことにした。
「人混みが苦手そうだから断られるかと思った」と言ったら鼻で笑われた。

「あなたはわたしの“保護者”みたいね」そう彼に言って、自分の気持ちをひた隠しにするようにわたしは笑う。そして、彼が「何かあったら僕が盾になってあげるから」とわたしに言ってくれたことをぼんやりと思い出す。かつての彼のその言葉が決して嘘でも冗談でもなかったこと、わたしは福岡に来た今、痛いほどに実感している。
知らないひとたちとの飲み会には、彼にいっしょにいてほしい。困ったとき、不安なとき、わたしは彼に会いたくなる。仕事からの帰り道、福岡のきれいな夕焼け空を彼も見上げていたらいいなと思う。そして頭のかたすみにでも、わたしを思い出してくれていたらいいなと思う。

午後、雷が鳴り出してざっと強い雨が降った。遥か向こうには山の稜線がいつもより近く、群青色した空に差し込むオレンジの光は雨上がりの夕焼け。自転車に乗って生温い風を切り、走る、走る、走る。

大濠公園の花火大会のことは、あの子が教えてくれた。あの子はわたしに「いっしょに行こう」とは言わなかった。

いやな女だけど、ずるい女だけど、わたしはいまのわたしが好き。