薄青

胸の奥が疼くような、やるせなくて、どうしようもなくて、切ない気持ちが見え隠れした。うまく言えないけれど、彼にとってわたしはただの“会社の後輩”でしかないのだと、そんな当たり前のことを何度も何度も思い知らされた。

わかってる。わかってた。埋められない溝、縮まらない距離、これが未来のない恋だということも、わたしはぜんぶ知っていた。

小賢しい恋の駆け引きが通用するようなひとじゃない。そもそも、わたしはそんな駆け引きができるほど器用でもない。すきなひとを「すき」だと、ただまっすぐに想うことしかできなくて、伝えたくても伝えられない気持ちに息ができなくなるほど溺れてゆく。

昔付き合っていたひとのこと。どこの誰かは知らないけれど、彼がずっと長く付き合っていて、真面目に結婚を考えていたひとのこと。それだけじゃない。すきなひとが今「すき」なひと、彼女の話を彼の口から聞くこと。彼女と遠く離れた今も、彼は頻繁に彼女と連絡を取っていること。彼が埼玉へ帰るときには必ず彼女に会っていること。
わたしは一体どんな顔をして彼の話を聞いていたのかな。彼は彼女のことを「すき」だとは決して言わないけど、わたしには彼の気持ちが手に取るようにわかる。わたしが彼に恋をしているように、彼も彼女に恋をしている。そして彼女も、彼のことがすきだ。
「社内恋愛はありえない」と言い切る彼は、きっと嘘つきだと思う。

今朝、福岡はどしゃ降りの雨だった。通勤途中、傘からこぼれるしずくを数えながら信号待ちをしていたら、彼がいつの間にか横に立っていた。昨日の朝も同じ場所で彼に会ったことを思い出した。「最近よく会いますね」と言って、彼は笑っていた。わたしもつられて笑顔になった。
ふたりで並んで歩く横断歩道が、いつもよりちょっと長く感じた。