sky green

福岡での生活にはいまだ馴染めず、職場でも右往左往する毎日。
それはわたしだけではなく、彼も同じのようだ。

お昼休み、席を立ったら彼が仕事に没頭しているのが見えたから、「今日は外で食べたい気分なの」と話しかけて彼を外へ連れ出した。通りすがりに見つけた、なんてことない普通の定食屋さんに入った。値段が安いわりにおいしいごはんだった。
「週末は何をしていたの?」と聞かれて、「部屋を片付けたり、同期と飲みに行ったり」と話した。彼は「買い物に出かけたり、映画を観たり」したそうだ。何の映画を観たのか聞いてみたら、「恥ずかしいから言わない」と言って、教えてくれなかったけど。
「こんな調子じゃ、週末にどこか足を伸ばしてみようかなんて気にもならないですね」と、彼が大きなため息をつくから、「わたしは近いうちに太宰府天満宮に行ってみようと思っているのだけど、いっしょに行きますか?」と、それとなく聞いてみた。彼は思いのほか乗り気で、「5月半ばの週末なら空いている」らしく、結局、ふたりで太宰府天満宮へ行くことにした。

わたしは、はじめから彼を誘おうと思ってた。
未来のない恋だとわかっているから、この先、失うものはなにもない。お互いにいい大人なのだし、「嫌われたらどうしよう」とか「気まずくなったらどうしよう」とか、そんな心配も要らない。断られても、「それじゃ、また今度ね」とおとなしく引き下がるつもりでいた。
でも、「予定があって都合がつかない」という理由以外で彼に断られることはないだろう、という根拠のない自信もあった。“いい大人”のわたしたちは、ふたりで出かけることに特別な意味を見出したりしないだろうと思った。悲しいかな、それはやっぱり当たっていて、少なくとも彼にとってわたしと過ごす週末は、何の変哲もない週末の過ごし方のひとつでしかない。それだけははっきりと悟った。

ツツジの花が咲き誇る道端で、となりを歩く彼の香水の匂いが鼻をかすめた。やわらかさのなかに清潔感と清涼感を含ませたような香りは、彼にとてもよく似合っているといつも思う。