涙色

昼休みに自席でコンビニのおにぎりをほおばっていたら、すきなひとが話しかけてくれた。「元気そうですね」と言う彼に、わたしは「元気じゃありません」とあっさり答えた。
いっしょに仕事をしていた先輩から、忘れものの書類が届いただけで泣きそうになったこと。同じ会社なのに支社が違うだけでこんなにも雰囲気が違うものかと驚き、戸惑っていること。そして、今はとにかく埼玉に帰りたいということ。まわりに誰もいなかったけれど、できるだけ小さな声で彼に話した。

焦っちゃいけないとわかっているのに、埼玉で、(嫌なこともたくさんありながら)自分のやりたいようにのびのびと仕事をしていたことを考えると、今わたしが置かれている環境はあまりにも違いすぎて、どうしたらいいのかよくわからなくなっていた。
彼は、そんなわたしの気持ちをわかってくれた。ふたりでこっそりひとしきりの不満を口にしたあと、彼は「たまにはいっしょにお昼でも行きましょう」と言い残して席へ戻っていった。でも、たったそれだけのことで、わたしはほんとうに救われる思いだった。

次の日、彼が会社のメールでさっそくお昼に誘ってくれた。昼休みの1時間はあっという間に過ぎて、九州に来て初めて、心から楽しいと思えるひとときだった。そして、笑うと目尻が下がる彼の笑顔を、やっぱりわたしは「すき」だと思ってしまった。彼にはとてもじゃないけど言えない、最初で最後の、大きな秘密。

この一週間はとても長かった。ほんとうに疲れ果ててしまった。