若葉色

彼は昼過ぎに出社した。
方々に挨拶回りをしている彼を、わたしはじっと見つめていた。ぴんと伸びた背筋、淡いサックスブルーのワイシャツ、飄々とした横顔。至極当たり前のことだけど、彼はどこにいても彼のままだ。それを知ったわたしは心底安心した。

いつの間にか彼の姿がわたしの視界から消えたと思ったら、彼はわたしの席の近くにひょっこりと現れ、わたしのいるチームでお決まりの挨拶をしていた。埼玉でいつも見ていた彼が、わたしといっしょに九州にいること。同じフロアで、同じ部内で、埼玉にいたころよりも近い距離で、彼と仕事をすること。「どうしてこんなところへ?」と、思わず彼に問うてみたくなるくらい、なんだかまだ夢を見ているような気がする。

彼はわたしの姿をその目にとめて、なんだかおかしそうに笑った。
そのとき、わたしはきっとすごくうれしい顔をしていた。
あぁ、やっと会えた!と、そう思った。

彼をすきだとかきらいだとか、そんなことはなしにしても、埼玉にいたころのように軽口を叩き合えるひとがひとりでもいるというのはとても心強い。見知らぬ土地で、知らないひとに囲まれて、慣れるまで不便な生活が続くことは目に見えている。困ったり、悩んだり、寂しかったり、そんなときに同じ気持ちをわかってくれるひとがいてくれてよかった。ほんとうに、よかった。

わたしが仕事を終えるころ、彼はすでに退社していた。「明日は引越しの荷物が届く」と言っていたから、きっと休みを取るのだろうな。聞きたいことも話したいことも山のようにあったけど、今日はほとんど話せなかった。