若緑

4月から九州で暮らすことになった。まだ実感がわかないけれど、来月の今ごろは九州にいるらしい。
父親が転勤の多い会社に勤めているから、わたしは小さいころから引越しばかりだった。だからなのか、初めての街で始める新しい生活に不安を抱くというよりは、なんだかワクワクしている。もちろん、長年住み慣れた関東を離れることに一抹の寂しさも感じる。関東にいる友人たちに会えなくなるのも残念だと思う。

「君をひとりぼっちで行かせるわけにはいかないから、護衛の者をつけておいたよ」と、任用担当のわたしの先輩が笑いながら冗談を言った。こんなわたしの“護衛”だなんて誰のことかと思ったら、それは、わたしのすきなひと、だった。
すきなひと、は、予想外の転勤命令にものすごく反発したらしい。(そりゃそうだ。復興業務で大変な「東北」ならまだ諦めもつくだろうけど、なぜ、今になって縁もゆかりもない「九州」なのだ!と。わたしだって最初はそう思った。)でも、わたしの異動先が偶然にも同じ場所だと知るや否や、彼は「知っているひとがひとりでもいるなら」と、態度を少し軟化させ、会社の厚生担当であるわたしからの宿舎の説明を黙って聞いてくれていた。

「お互い慣れるまで大変ですね…」と、すきなひとからメールが届いたけれど、その大変さを想像できないわたしはきっとどこか浮かれているのだろう。
だって、桜が咲いても、新緑の季節も、長雨が憂鬱な日も、その先も、わたしはずっとここで、変わらずに、いつものメンバーで、普段どおりに同じ仕事をしているような気がしているから。環境が変わること、生活が変わること、職場が変わること、そんな場所に身を置いて戸惑いを覚える自分を思い描くことができないから。

月並みだけれど、一生懸命がんばろうと思う。がんばっても、がんばっても、悩んで、困って、右も左もわからなくなって、迷子になりそうなときは、勇気を出してすきなひとを頼ってみようと思う。そしていつかは、すきなひとに頼らずともなんとかなるような環境を、自分で作っていこうと思う。そうしたい、と思う。