薄柿

女満別空港駐機場。月が明るかった。帰ってきて見上げた羽田の空は、どんより曇っていた。

ウォークマンが壊れた。新しいものを買いに行く暇もお金もないから、最近の通勤のおともには専ら「単語帳」。試験まであと2週間ちょっと。なんとかすべりこみで合格して会社の先輩に喜々として報告し、祝い金の使い道を考えながらうきうきする自分の姿を妄想する。妄想だけならタダである。

すずむしの大合唱、水たまりを照らす街灯、カレーライスのにおい、雨上がりの湿った風、雲間から見える一粒の星、こつこつとアスファルトを踏みしめるヒールの音。
会社からの帰り、帰宅ラッシュの電車に揺られ、くたびれた身体をひきずるようにして家まで歩く道中、お気に入りの音楽を聴きながら歩くのもいいけど、五感を研ぎ澄ませながら歩くのも悪くない。

10月初日。仕事がとても忙しく、慌しい一日だった。