灰青

ポストを覗くと手紙が入っていた。手に取った封筒には、懐かしい字でわたしの名前が踊っている。妹の字だ。手紙にしてはやけに分厚いし、なんだかもこもこした感触。これは一体何だろう?と思って封を開けると、CD-Rと絵はがき、それと、そっけないメモが一枚。
「ラジオから流れてくるミサワホームのCM、平井堅が歌っている歌がとてもいいね」と、平井堅の大ファンである妹にメールをしたら、「“堅さま”のオススメの曲を集めてみたから聴いてね!」と、わざわざCD-Rに焼いて送ってきてくれたらしかった。平井堅のことを「堅さま」と呼ぶひとにわたしは初めて出会ったけれど、妹はそれほどに平井堅を好きなのだろうなと思った。
さっそく聴いてみた。どれも一度は耳にしたことがある有名な曲ばかりだけど、それ以来、ごはんの仕度をしているときや掃除をしているとき、洗濯物を干しているときなど、ことあるごとに妹がくれたCDをかけている。
「ありがとう」と送ったお礼のメールに返事はない。姉妹そろってメールも電話も苦手、というのはさすがだと思う。

平井堅わたしのすきなひとが好きな歌手でもある。彼は平井堅のライブにもよく出かける、と言っていた。「まわりはオバサンばっかりですよ」とも言っていた。
こんな直球のラブソングを、彼は一体何を(誰を)思って聴いているのかと思うと謎だらけ。あまり多くを語らずいつも飄々としている彼だからこそ、彼が好きなものを、彼が好きなひとを、知ってゆくごとに、わたしは彼のいる世界がどこか遠いところのような気がしている。

オリンピックの開催地が東京に決まった。7年後、わたしは33歳になっているらしい。どこでなにをしているのやら皆目見当もつかないけれど、自分らしい「しあわせ」のかたちを見つけて毎日楽しく暮らせていたらいいな。